精神医学系の新刊

 9784906502523
POWERMOOK 《精神医学の基盤》[3]
精神医学におけるスペクトラムの思想
村井俊哉/村松太郎=責任編集
[B5判 212p 5000円+税 ISBN9784906502523] 収録論文の抄録はこちらから

本書について】精神科の臨床や研究の場で「スペクトラム」という言葉を耳にすることが最近増えてきた。学術論文では、双極スペクトラム、強迫スペクトラム、自閉症スペクトラム、統合失調症スペクトラムなどの言葉が、頻繁に用いられるようになっている。精神科診断だけでなく医学診断一般はカテゴリー的に定義されることが通常であるが、それを連続体として考えようという「思想」が精神科において優勢になってきている。実際、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の診断基準集DSM-5では、統合失調症と自閉症について「スペクトラム」の語が明示的に書き込まれた。このうち「自閉スペクトラム症」の用語は、早くも我が国の日常臨床の中に定着しつつある。
本書は学樹書院から出版されている《精神医学の基盤》シリーズの第3巻となる。このシリーズでは先行する2冊においても、精神医学の知見の網羅やマニュアル的情報の効率的提供ではなく、精神医学の土台をなす思想、方法論、あるいはパースペクティブそのものを問うことが目指されてきた。この第3巻ではその方針をさらに先鋭化させ、思想、方法論、パースペクティブが互いに異なる気鋭の研究者・臨床家に、それぞれの立ち位置からの論稿を寄せていただいた。執筆者間の主張の間で整合性をとり矛盾を解消するような編集作業は一切行っておらず、予定調和的な結論も最初から目指さなかった。むしろ、そこに存在してしかるべき意見の多様性を敢えて際立たせることを、執筆者の選定を含めた編集の大方針とした。
「スペクトラムの思想」というテーマが一応あるとはいえ、執筆陣の力量と熱意によって、本書は「精神科診断学の哲学」一般についての本格的な論稿集といえる仕上がりとなった。本書を通じて精神医学の概念的基盤に関わる問題の複雑さと奥行きを読者の皆様に体感いただき、他書では味わうことのできない「精神医学における思索の歓び」を共有していただければ、本書はその主要な目的の一つを達成したことになるといえよう。


9784906502509s

POWERMOOK 精神医学の基盤[1]
薬物療法を精神病理学的視点から考える
石郷岡純/加藤敏=責任編集
[B5判/229頁/定価4000+税 978-4-906502-50-9] 「抄録」はこちら
対談「薬物療法の進歩と精神病理学の展開」(石郷岡純×加藤 敏)/「遺伝子-言語複合体」としての人間に対する薬物療法を考える(加藤 敏)/薬物療法と精神病理学(石原 孝二)/薬物療法の進歩に精神病理学はいかに寄与したか(兼本 浩祐)/操作的診断カテゴリーと疾病概念の齟齬 ― 治療学との関連性をどう考えるか(大野 裕)/統合失調症の薬物療法における精神病理学的意義(福田 正人)/ うつ病の薬物療法における精神病理学的意義(田島 治)/薬物療法の前提としての双極性障害の精神病理学(阿部 隆明)/不安障害の薬物療法における精神病理学的意義 ― 神経症概念の治療学的有用性(越野 好文)/児童・思春期の薬物療法における発達心理学的意義(岡田 俊)/精神病理学・症候学的視点から高齢者の薬物療法を考える(萩原 徹也・天野 直二)/精神病理学的視点から見た統合失調症の回復と治療(鈴木 國史)/薬物療法における回復論再考 ― ドパミン神経系のレジリアンスにおける役割の重要性を通して(石郷岡 純)/なぜドパミンD2 受容体遮断薬は抗精神病薬となりうるのか?(渡邉 衡一郎)/モノアミン増強薬はなぜ抗うつ薬となるのか(稲田 健)/精神科治療におけるレジリアンスの思想(小林 聡幸)/精神病理学の今後の可能(性村井 俊哉)/コラム:精神医学における仮説の構築と検証(森田邦久)/エッセイ= 松下正明、濱中淑彦、Luc Ciompi/協賛企画= Clozapineの導入と日本の精神科医療(藤井康男、藤田潔、琉球病院多職種チーム)


9784906502516s

POWERMOOK 精神医学の基盤[2]
うつ病診療の論理と倫理
田島治/張賢徳=責任編集
[B5判/208頁/定価4000円+税 ISBN978-4-906502-51-6] 抄録はこちら
対談「最近のうつ病診療の傾向をどう考えるか」(田島治/張】賢徳)/徹底討論 うつ病の理解と抗うつ薬の適切な使い方 過去・現在・未来(樋口輝彦/神庭重信/張賢徳)   I うつの論理  今日のうつ病診療における問題点と課題(松浪克文)/うつ病の論理と倫理 医療人類学的視点から(北中淳子)/マスメディアとうつ病(岩波明)/ II 診断の論理と倫理 うつ病診断・治療の論理と倫理 過剰診断の問題,過少診断の問題( 張 賢徳)/臨床精神病理学的視点から見たうつ病の診断学( 古茶大樹)/III うつ病治療の論理,実践,展望  今日のうつ病診療における課題と展望(中村 純)/日常診療におけるうつ病(1)プライマリケア医の立場からの実践的治療論(井出広幸)/日常診療におけるうつ病(2)総合病院から本物のうつ病を再考する(大坪天平)/日常診療におけるうつ病(3)労働者のメンタルヘルスケアの視点 ( 桂川修一/黒木宣夫)/薬物療法の効果とリスク―抗うつ薬の有効性と安全性をどう評価するか(仙波純一)/うつ病の精神療法再考( 中村 敬)うつ病に対するneuromodulation(高宮彰紘/鬼頭伸輔)/開発中の抗うつ薬と今後の薬物療法の展望(竹林 実/山脇成人)/◆コラム: フーコーと精神医学(栗原 仁)/◆シリーズ: 日本の精神科医療 エキスパートに聞く(2):治療に難渋するうつ状態の診断と寛解への次の一手(加藤正樹)


新・精神病理学総論 人間存在の全体
K ヤスパース/山岸 洋[解説・訳」
[四六判/並製/390頁/定価4000円+税/ISBN978-4906502394]
 今日、精神医学は、おそろしい停滞の状況の中にある。医療現場に身を置く医師として、他の医学分野の急速な進歩からはほとんど縁のない地点に足止めされているような感覚を私たちは味わっている。私たちの目の前には、私が医師になったころと本質的には何も変わらぬ状況が広がっている(もちろんそうは感じていない能天気な人たちもいる。それだけに精神医学の危機は根深いのである)。その目の前にあるものは私が医師になる前にも長くほとんど同じままであったのである。私たちは、一九九〇年代以降、脳の機能についての生物学的研究のすばらしい進歩に目を奪われていたのだったが、しかしそこからの成果によって私たちの臨床が三〇年前と比べてどれだけ変化したと言えるのだろうか。精神科診断の国際化と操作的基準導入のために精神科医の莫大な労力が投入されているが、それは患者や社会にどれだけの利益をもたらしたのだろうか。新たな抗精神病薬と抗うつ薬の導入が次々とおこなわれてきたが、私たちはむしろ無定見な処方を、こともあろうか医学の素人からさえ指摘される時代に直面している。精神科医の仕事のあり方全般に対しても、社会の一部から厳しい批判が巻き起こりつつある。
 精神医学は、着実な科学的進歩という面で、明らかにこの一世紀にわたってヤスパースの時代に抱かれていた期待を裏切りつづけてきた。つまり、「総論」という書に記された各論的部分において、精神医学は当時のままに留まっている。では「総論」の総論的な部分であるこの第六部に述べられていることは、この精神科医療の停滞した今日の状況をいかなる意味において変える力を持っているのだろうか。

立ち読みPDF(訳者解題)