書名 初めの光が
副題 歓びと哀しみの時空
著者 チャールズ・バクスター
訳者 成田民子

歓びと哀しみの時空間を科学的・芸術的感性で投射した異色作家による知的ワンダーランド。

「人生はこんなふうに形成されるのだ」ということを教えられる心に響くアメリカ文学の作品です。

科学とは、芸術とは、愛とは、生とは、そして人間とは何か、について考え続けている人々のための珠玉の長編小説。

1999. 6   学樹書院

ISBN4-906502-10-5 C0097

四六上製/416頁/税込定価¥2625(本体¥2500)

 目次 本書について 著者/訳者   書評・その他


本書について
車の販売会社に勤める凡庸な兄ヒューと宇宙物理学者の妹ドルシー。物語はこの二人の人生行路を逆行し、やがてドルシーの誕生の瞬間に至るまでの出来事を主軸として展開される。二人の周辺に出没するエキセントリックな人間たちが演じる奇妙な日常、さりげなくスケッチされる現代アメリカ社会の諸相、折々に引用されるボードレール、ダンテ、ニーチェ、オッペンハイマー。著者は、理論物理学、哲学、宗教、文学、芸術にかんする驚くべき知識を駆使しつつ、さまざまな人物たちが放つ縦横無尽の「光」を淡々と叙述する。著者の創造する時空の淵源に接した読者は、そこに広大な宇宙空間と自己自身の内なる「光」を再発見することだろう。各章ごとに短篇小説的な完結性がみられる作品であるが、全体を通読することによって壮大な心象風景が知らぬ間に形成される濃厚な小説である。「読み進めるうちに、バクスターが語っていることは私たち自身の物語であったことに気づかされる。人生はこんなふうにして形づくられるのだということに」(ポール・オールスターの書評より)。USAトゥデイ、ワシントンポスト、デトロイトプレスなど、全米のメディアが絶賛した異色の長編小説。


著者/訳者について
Charles Baxter 1947年ミネソタ州ミネアポリスに生まれる。現在、ミシガン大学で教鞭をとる傍ら、詩集、エッセイ、評論、小説と幅広い領域で執筆活動を展開中の異色作家。とりわけ短編小説への評価が高く、1980年代の「ベスト・アメリカン・ショート・ストーリーズ」には4回選出されている。本書は著者による最初の長編小説。わが国ではすでに『世界のハーモニー』『安全ネットを突き抜けて』『見知らぬ弟』が翻訳刊行されている(いずれも早川書房)
なりた・たみこ 作曲家、ミュージカル作家。1970年代より舞台演劇活動に従事し、多数の舞台音楽を創作する傍ら、「湘南ビーチFM」の英語放送でレギュラー・パーソナリティーを担当(1996-97年)。主な著作に『まつゆきそうの夢』『友達たんてい宝さがし』『ピアノはともだち』(いずれも音楽之友社)、ミュージカル舞台作品に『なぞの大時計』『ペルシャの薔薇物語』などがある。現在、桐朋学園講師、アメリカン・スクール・オブ・ジャパン講師。

書評より

この作品はこの二人の人間関係を通して、兄妹とはどのようなものなのか、いわば兄妹の絆という問題を追究している。こうした主題は珍しいものではないが、独特の叙述形式をとっているのが注目される。・・・ 凝縮した文章によって日常的な出来事を描き出し、その奥にひそむ人間の真実が啓示される。・・・奥が深い作品であり、訳出されたことを喜びたい。(井上謙治氏、図書新聞 1999. 4/10)

・・・ この作家は、長編という不得意分野に挑戦するために、ふたつの実験をしている。そのひとつが遡航である。時間をひたすら遡る。・・・バクスターは、短編書きの秘密のひとつは、「見知らぬ人間たちを登場させ、彼らをぶつけることだ」と語ったことがある。この長編に登場する人々は、見知らぬどころか、互いに兄妹、夫婦、師弟、親子であり、よく知り合っている関係にある。にもかかわらず、なにかよそよそしく、ぎくしゃくしている。いったいどうしてこうなったのか、どこに行き違いの発端があるのか、章を追うごとに、これらの疑問への解答が明らかになっていく。人間関係の謎解きは興味津々。(枝川公一氏、イングリッシュジャーナル、1999.5月号)

   関連情報 成田民子 ≪バクスターの『初めの光が』について≫