妄想とパースペクティヴ性
認識の監獄 
W. ブランケンブルク編  
山岸洋・野間俊一・和田信=共訳 

●本書について
先年に没した編著者ブランケンブルクは、ヨーロッパの精神病理学界はもとより、日本の精神病理学者や哲学研究者にも、数回の来日や交流をとおして大きな影響を与えてきた碩学として知られている。本書はブランケンブルクのもとに結集したドイツ語圏の主要な精神病理学者たちが、「パースペクティヴ性」という新たな概念を援用しながら「妄想」の解明を試みた記念碑的論文集である。パースペクティヴの可能性や能力は妄想においてどのように損なわれているのか、そしてこのことは妄想体験を理解する際にどのような意味をもっているのか、さらには妄想的でない関係はいかにして成立可能なのか、といった問題に迫る重厚な諸論考に、読者は精神病理学の新たな展開を読み取ることだろう。「パースペクティヴというものは、一方において、人間に対する個人の体験が交換不可能であることを保証しており、その意味で個々のパースペクティヴは独自性をもっている。他方において、われわれは、いかなるパースペクティヴをもとうとも、つねにわれわれに共通の一つの世界のうちに生きていかざるをえない。パースペクティヴ性において、この両方のことがらは相互に媒介されているのである。……したがって、妄想的な体験と妄想的でない体験のそれぞれの構築を相互に対比しながら正確に把握しようとするのであれば、パースペクティヴ性のモデル以上に好都合な出発点はないと言ってよいだろう。」
 
目 次 
緒言 --- 学際的コンセプトとしてのパースペクティヴ性
  ヴォルフガング・ブランケンブルク
パースペクティヴ性と妄想
  ヴォルフガング・ブランケンブルク
人間的な営為としての出会い、出会いの障害としての妄想―パースペクティヴ引き受けの精神病理
  ヴァルター・フォン・バイヤー(故)
パースペクティヴ性の病理
  ヨハン・グラッツェル
変容した覚醒意識状態としての妄想
  クリスティアン・シャルフェッター
妄想と自己 --- 獣化妄想の例に見られた自己像の一次元的な歪み
  ミヒャエル・クノル
同一性理論から見たメランコリー性妄想
  アルフレート・クラウス
精神療法の観点から見た妄想
  ガエターノ・ベネデッティ
相互作用的現象としての妄想
  W.Th.ヴィンクラー(故)
妄想治療の現存在分析的側面と精神薬理学的側面 --- 完全に対立するかに見える二つの治療法の接近へ向けて
  ローラント・クーン
結語 --- パースペクティヴ性 vs.パースペクティヴ主義:パースペクティヴ可動性不足の病理からその治療へ
  ヴォルフガング・ブランケンブルク

A5判 定価3675円(税込) 

4-906502-26-1 C3011 

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