第1回日本集中治療学会関東甲信越支部学術集会リポート [2017.09.13]

第1回日本集中治療学会関東甲信越支部学術集会リポート
CCU : ”Coronary Care Unit”から”Cardiovascular Care Unit”へ 

橋本 賢一  (防衛医科大学校 集中治療部) 

さる2017年7月29日(土)に、第1回日本集中治療学会関東甲信越支部学術集会(会長 高瀬凡平先生)をJR大宮駅に隣接した埼玉県大宮ソニックシティで開催・主催させていただきました。本学会は旧日本集中治療学会関東甲信越地方会としては過去25回開催され、非常に伝統ある学術集会であります。今回は地方会としては26回目にあたる年でありましたが、第1回の本部支部会となりました。そのため、細則など多くの変更がなされ本会と何度も折衝しながら運営準備を進めました。関係スタッフのご協力により最後まで大きなトラブルもなく無事に学会開催を終えることができ安堵しています。

今回の学会のテーマは「集中治療における心循環器エキスパートの新たな展開とintensivistとの親密な連携を目指して」をメインテーマと致しました。近年、CCU/ICUに収容される急性心血管疾患集中治療の内訳は、急性心筋梗塞から急性心不全や大動脈解離を含む大血管疾患、院外心停止蘇生後及び急性肺梗塞症等の複雑な急性期医療を要する疾患に変化している事実が明らかにされています。CCUは、”Coronary Care Unit”というよりも”Cardiovascular Care Unit”と称されるようになりました。この過程で、急性心血管疾患集中治療には、救急搬送を務める救急隊連携、院内救急システム、循環呼吸管理、モニタリング、鎮静、画像診断、感染対策、多臓器不全管理、循環補助と移植医療、急性期リハビリ、終末期医療、これらすべてが関与することが必須となりました。各分野のプロがチームを組んで医療を行う「ハートチーム」医療の段階へと、循環器集中治療の実態は変化しつつあります。医師・看護師・薬剤師・臨床工学技士・救急隊員などの医療従事者が合同して各分野のプロがチームを組んで医療を行う「ハートチーム」医療を目指すことを目標としました。企画セッションにつきましては、特別講演2題、シンポジウム6題、看護教育講演3題、ミニレクチャー4題を活発な討論をもって終える事ができました。また、一般演題に関して多くの応募を頂き、125演題を採択とさせていただきました。結果的に医師以外のパラメディカルの参加者が4割を超え、今回の学会のテーマを達成すべくことに繋がることと考えております。

以下に企画セッションの概要をご紹介させていただきます。

特別講演には山科 章先生(東京医科大学 医学教育推進センター)をお招きし、プロフェッショナリズムの視点から循環器集中治療の今後のあり方についてのご講演頂きました。また後藤 幸生先生(福井大学医学部 名誉教授)をお招きし1960年代後半の日本におけるICU発足当時から1990年代に至るICUでの心電情報に関する研究業績についてご講演頂きました。
教育講演に関しては集中治療領域における重要テーマである、敗血症診療ガイドライン2016、ARDS診療ガイドライン2016についてご講演頂きました。また、循環器領域では急性心不全における血行動態評価・多臓器連関及び集中治療における心肺停止後症候群(PCAS)について新しい知見を含めてご講演を頂きました。

看護教育講演では、「災害急性期の看護活動とダメージコントロール、クリティカルケアにおける回復を促進させる支援」また、「開発途上国の医療と集中治療の現状について災害医療」について防衛医学の内容を含め、第一線でご活躍されている諸先生方のご講演を賜りました。
ミニレクチャーは本学会において、若手医師やパラメディカルに大変人気があるセッションでございます。循環・呼吸領域の基礎的なテーマをご講演頂きました。心電図・不整脈診断の基礎、心エコーの基本、集中治療室での心エコー図検査、及びICUにおける呼吸管理とリハビリテーション集中治療の臨床現場にて第一線で活躍されている諸先生方にご講演を賜りました。また、現在日本蘇生協議会から発表されているガイドラインは2015年版であります。次回の蘇生ガイドライン2020に反映される可能性が高い一次救命、二次 救命、血管作動薬、抗不整脈の使用に関するトピックスをご紹介頂きました。

シンポジウムに関しましては、循環器領域にて最前線で臨床及び研究で活躍なさっている先生方にご発表とご討論頂きました。 院外心停止の予後改善を目指した新たなる検査法、治療法、また医学教育についてご発表、ご討論を頂きました。また、集中治療において、輸血は古くから重要であるにも関わらず、現場に輸血製剤が間に合わないなどの問題点があります。現在臨床応用が期待されている人工赤血球についてテーマを取り上げました。その他、現在のCCU入室者は心不全患者の占める割合が多くなっています。集中治療における重症心不全の治療についての治療戦略について討論が行われました。また、循環器集中治療領域における重要テーマである致死性不整脈に対する治療に役に立つ薬剤の使い方、着脱型ICD(植込み型除細動器)の新しい話題について討論が行われました。今回の学会テーマともオーバーラップする多職種連携によるハートチーム医療の現状について、急性期治療及びリハビリテーションの話題について各施設の取り組みについて活発にご討論頂きました。

一般演題においては、ショックまたは心肺停止を呈したST上昇型心筋梗塞の短期予後に関する検討、より良い人工呼吸器離脱のための大規模多施設共同研究、高齢化が進んだ地域のICUにおける高齢集中治療患者の疫学などの討論が行われました。看護部門では気管内挿管患者の抜管前口腔ケアの時期に関する検討や、従来のスケールやガイドラインを踏まえた鎮静・疼痛・せん妄に関する新しい看護の取り組みについての討論がなされました。厳正なる審査の結果、一般演題から優秀演題賞には神田潤先生(帝京大学医学部救急医学講座)が演題名「熱中症の転帰と冷却法の関係」で受賞されました。また、奨励賞には八木司先生(川口市立医療センター集中治療科・循環器科)が演題名「ST上昇型心筋梗塞における梗塞責任冠動脈と導出18誘導心電図の関係」にて受賞されました。

本学術集会は循環器領域がメインであったものの、集中治療領域における中心的な疾患であるARDS,敗血症はガイドライン改定に伴うトピックスでありました。この2疾患は日本版ガイドラインが昨年改訂になりました。これらの疾患における病態解明が進んで、薬物治療の選択や人工呼吸器の設定などの治療に直結する具体的な内容が多くのRCT(無作為2重盲検試験)を基づいてガイドライン化されました。エビデンスを重視した、集中治療管理を実践する施設が増えてARDS,敗血症の救命率が近年上昇しています。ARDSにおいては発症時期、酸素化不良の程度により重症度分類される新診断基準(ベルリン定義)が定着致しました。また、治療に関しては人工呼吸器による肺保護療法(high PEEP,低容量換気)が確立されました。敗血症においては2016年に発表された世界のコンセンサスガイドラインであるSepsis3の内容が盛り込まれ、概念が新たになりました。従来敗血症診断に入っていたSIRS項目は診断基準から外されました。血圧、呼吸回数及び意識の変容の3項目(quick SOFA)で敗血症をスクリーニングします。このうち2項目以上の基準を満たす場合に敗血症を疑い、次に意識(GCS)・呼吸(P/F ratio)・循環(平均血圧)・肝機能(ビリルビン値)・腎機能(クレアチニンもしくは尿量)・凝固(血小板数)の6項目を評価して敗血症を確定診断と重症度を分類(SOFA score)することがスタンダードとなりました。一方、小児の場合ARDSにしても敗血症に関してもし成人と比較すると圧倒的に症例数が少なく、エビデンスが不足しいている印象でした。また、循環器領域では高齢化に伴い虚血性心疾患のみならず近年様々な基礎心疾患による心不全患者が増えております。高齢の心不全患者は、社会復帰に向けてのリハビリテーションが非常に重要で有り他職種の連携によるハートチームの強化が重要であると考えられました。また、PCASは依然として死亡率、社会復帰率は低いため予防を含めて今後さらなる研究の可能性があると感じました。

上記の印象でしたが、学会前日から当日にかけて運営に追われたことや、会場も5会場あったためカバーしきれず、お伝えできない部分もかなりあったかもしれませんが、ご容赦下さい。ご協力頂きました、関係するスタッフに感謝を申し上げ本レポートをとじさせて頂きます。