POWER M《精神医学の基盤》の構想とUPDATE

POWER MOOK《精神医学の基盤》について

精神医学を医療として成り立たせる基盤の本質を実地的視点から考える ……..

精神医学の基盤とは何か?
精神医学に《基盤》は存在していないかのようである。
自然科学であろうとすれば、異論が唱えられる。
反精神医学の思想は、精神医学そのものの意義を否定し、政治や思想の問題とみなした。
薬物療法の進歩が脳のメカニズムの解明にヒントを与え、今度は《基盤》の地位は薬物療法に支配された。

精神医学の基盤は、政治学となり、心理学となり、社会学となり、生物学となった。
 とすれば、今日、精神医学の知識を得ようとする人々はどこに焦点を絞ればよいのだろうか。

POWER MOOK 精神医学の基盤は、捉えどころのないこの領域の「基盤」にスポットを当てようとする。

第2期として企画された3つのアプローチは、「科学」「仮説」「エビデンス」である。
精神医学がよりどころとする基盤は、以上3つの領域を中心として成り立っている。

今日の精神科臨床に求められている「科学的知識」を各論レベルで深化させることが、《POWER MOOK 精神医学の基盤》総合テーマ:精神医学における科学的基盤の狙いである。

第2期[総合テーマ]精神医学における科学的基盤について([4]の予告記事)
【総監修】山脇成人・神庭重信 【責任編集】加藤忠史・大森哲郎・古川壽亮・川上憲人

 

Update

◆ 2021年4月刊 ◆
[5]精神医学における仮説の形成と検証(大森哲郎=責任編集) 詳細はこちら

【主な内容】 メランコリー親和型とうつ病(本村啓介)/食とうつ病:リスク因子と介入法について(功刀浩)/モノアミンとうつ病:再考 モノアミン仮説はどこまで検証されているのか?(中川伸)/うつ病の神経回路仮説とニューロフィードバック(上敷領俊晴・岡田剛・高村真広・市川奈穂・岡本泰昌)/双極性障害の分類とスペクトラムをめぐる仮説と検証(仙波純一)/コラム:いつまでも仮説で良いのか(加藤忠史)/統合失調症というカテゴリー(大森哲郎)/神経発達障害仮説の形成と検証 統合失調症の臨床病期ごとの脳病態解明を目指して(笠井清登)/統合失調症ドパミン仮説からグルタミン仮説へ(西川徹)/統合失調症のゲノム研究 全ゲノム関連解析がもたらした成果と臨床応用の可能性(谷口賢・齋藤竹生・池田匡志・岩田仲生)/iPS細胞からみえる統合失調症の特徴(豊島学・原伯徳・吉川武男)/神経症の消滅とその後の展開(黒木俊秀)/不安・ストレス・セロトニン仮説(井上猛・内田由寛・館千歌)/ASDをめぐる仮説とその検証(岡田俊)/ADHDの病態は明らかとなったか 仮説というファントム(岩波明,林若穂)/対談   精神医学における仮説の役割と現状 石郷岡純/大森哲郎/コメンテータ:神庭重信

◆◆ 総監修者 A Final Remark より
 シリーズ第5 巻「精神医学における仮説の形成と検証」の責任編集を大森哲郎先生に担当していただいた。冒頭に,「精神疾患100 の仮説」(星和書店,1998)を出版された石郷岡純先生との対談が企画され,DSM の“功”と“罪”から始まる格調高い議論は,同世代の精神医学教育を受けたものとして共感できるものであった。
筆者は1979 年に医学部を卒業し,精神分析と脳機能への興味から,ただちに精神科に入局した。入局当初はKraepelin などのドイツ精神医学の教育を受けていた先輩から患者の主訴,成育歴,現病歴を詳細に聞き取ることを厳しく指導され,症例検討会ではドイツ語混じりの難解なカンファレンスが行われていた。ところが1980 年にAPA から発表されたDSM-III は瞬く間に世界を席巻して,一地方大学の症例検討会も様変わりし,従来診断とDSM 診断を併記する流れに変貌した。一方,治療においてはハロペリドールやイミプラミンなどの薬物療法が定着し,精神薬理学が隆盛を極めていたが,1970 年代の反精神医学運動により我が国の生物学的精神医学は大きく後れを取った。

精神疾患の主流であるモノアミン仮説は精神薬理学によってもたらされ,向精神薬開発に大きく貢献したが,その限界も指摘され,欧米メガファーマが向精神薬開発から撤退し,精神薬理学の危機が叫ばれた。国際神経精神薬理学会(CINP)はこの危機を克服するために,精神疾患の病態解明と新規治療法開発を加速するためには,精神医学,脳科学などの研究者,製薬企業,規制当局などの産学官が結集したPublic Private Partnerships(PPPs) が不可欠であると提唱した。米国ではBrain Initiative,欧州ではHuman Brain Project,日本でも脳科学研究戦略プロジェクトなどが展開され,精神疾患の仮説に基づいた脳科学研究が行われてきた。しかし,残念ながらいずれも「作業仮説」であり,決定的な仮説検証はまだ得られていない。・・・・・・

その時代の最先端脳科学技法を用いた「作業仮説」の検証は精神疾患という巨大なピラミッドを構築する1つ1つの石にしかすぎず,仮説検証も堂々巡りのように見えるが,その成果はピラミッドの頂上(病態解明)に向けて着実にスパイラルアップしていると思われる・・・・・・(山脇成人
 [B5判 200頁 MOOK 定価 (本体5000円+税) ISBN9784906502547/ ISSN2188-9546]  詳細はこちら

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既刊(発売中)

[4]精神医学の科学的基盤(加藤忠史=責任編集)
【執筆者】 加藤忠史/榊原英輔/山脇成人・神庭重信・加藤忠史・/大森哲郎・古川壽亮/久島周・尾崎紀夫/松本光之/久保健一郎/福田正裕・西山潤/河上緒/横山仁史・岡本泰昌/宗田卓史・国里愛彦・片平健太郎・沖村宰・山下祐一/平野昭吾・平川則明・平野羊嗣・鬼塚俊明/高畑圭輔/植野仙経・村井俊哉/神尾陽子/池田暁史/狩野祐人・北中淳子

[3]精神医学におけるスペクトラムの思想(責任編集=村井俊哉/村松太郎)
【執筆者】 近藤健治・池田匡志・岩田仲生/武井教使/兼本浩祐/黒木俊秀/山岸洋/深尾憲二朗/前田貴記・沖村宰・野原博/寺尾岳/大前晋/十一元三/松永寿人/永田利彦/村松太郎/冨田真幸/村井俊哉/山内俊雄/鹿島晴雄/香山リカ/岡野憲一郎/田島治

[2]うつ病診療の論理と倫理(田島治/張賢徳=責任編集)
【執筆者】 田島治・張賢徳/樋口輝彦・神庭重信・張賢徳/松浪克文/北中淳子/岩波明/張賢徳/古茶大樹/中村純/井出広幸/大坪天平/桂川修一・黒木宣夫/仙波純一/中村敬/高宮彰紘・鬼頭伸輔/竹林実/山脇成人/栗原仁/加藤正樹

[1]薬物療法を精神病理学的視点から考える(石郷岡純/加藤敏=責任編集)
【執筆者】 加藤敏/石原孝二/兼本浩祐/大野裕/福田正人/田島治/阿部隆明/越野好文/岡田 俊/萩原徹也・天野直二/鈴木國史/石郷岡純/渡邉衡一郎/稲田健/小林聡幸/村井俊哉/森田邦久/松下正明/濱中淑彦/Luc Ciompi/藤井康男・藤田潔・琉球病院多職種チーム