がん産業/モス, RW(蔵本・桜井 訳)

4906502024sがん産業 [全2巻]

[1]がん治療をめぐる政治的力関係の構図
[2]予防の妨害と科学の抑圧
R・W・モス/蔵本喜久・桜井民子訳

[(1)四六判並製/429頁/定価¥2900円+税(2)389頁/本体¥2900+税]ISBN978-4-906502-02-8

アメリカにおける研究のメッカ、メモリアル・スローン・ケタリングがん研究所でかつて要職にあった著者は、アメリカのがん政策の問題点、現在行われている治療の知られざる実態を、がん医療の内側から告発する。「がん医療は慈善ではない。ビジネスである。しかもビッグ・ビジネスなのである」という観点から、がん医療の世界でいま何が起こっているのか、これから何が起こり得るかという問題について、驚くべき調査力を駆使して究明した驚愕の医学レポート。

【書評・その他】●二巻の本は、とてつもないことを告発している。がんという病気を追究、治療するのではなく、研究を脇道にそらせ、ますます不治のものとして定着させようとする米国の巨大組織の動きを具体的にリポートするのだ。医学・医療にも「闇」の世界が広がる。しかも、がんにからんで。なぜならがんはビジネス、それもビッグ・ビジネスだから」と著者。読みながら、近ごろがんで亡くなった知人、友人らの苦しみを思い出す。

巨大組織の動きとは、米国がん協会(ACS)、国立がん研究所(NCI)、食品医薬品局(FDA)など、本来がん制圧の指導的役割をしているはずの公的機関の陰の役割のことである。企業の利潤追求と当局の権威の癒着というべきか。著者のこれまでの著書『がん症候群』ともなったが、それをさらに全面改訂してこの二巻とした。これはもう犯罪だといいたくなる具体例が少なくない。
(RONZA、1995年七月号)

●本書は、巨大な産業になっているアメリカのガン関連研究・製薬・病院複合体を、詳細に分析したもので、産業論として読んでも興味深いし、世界の最先端を行くアメリカ医学の陰の部分を示す、内幕ものとしても面白い。・・・大部ではあるが、非常に読みやすい内容であり、訳文である。(日野秀逸氏「週刊エコノミスト」1995.9.5.)
●・・・この本は告発型の主張に貫かれている。とはいうものの、上下二巻、全八〇〇頁におよぶこの本は、全編にわたり研究論文の紹介と研究者へのインタビュー記事からなっているために、主題が厳しいにもかかわらず、読者は中立的な余裕をもって読むことができる。・・・この本は専門家にとって気がかりな状況を教えてくれる情報源として、得がたい価値をもっている。(名和小太郎氏「週刊東洋経済」1995.10.7.)
●世の中の仕組みがそうであるように、がんの世界にも主流派と非主流派とがあり、非主流派が主流派に抑圧されてきた事実が、以前米国で問題になったがんの薬、レイアトリル(アミグタリン)やアンチネオプラストンなどを例にとって詳細に述べられ、また財界や産業界が医薬開発に与えるバイアスについても鋭く迫る。さらにがんの予防の問題点にもふれられている。
本書はやや非主流派に同情的に書かれているが、これまでの歴史をみると、それぞれの時点でもっとも科学的な目をもって判断しているのは主流派であることを念頭に入れながら読むことも必要であろう。
訳者の一人は薬科大学において教鞭をとっている経済学者であり、医薬産業、行政、医薬の評価などについての深い知識をもっており、もう一人は薬学の専門家である。訳は科学的にも正確でしかも文章的にもすぐれている。
内容のよさとも相まって、ピュリッツァ賞にノミネートされたといわれるだけあってノンフィクション的にも面白く、[1]、[2]各巻それぞれ400頁に及ぶ大作でありながら最後まで読み通せる。また文献記載もあり、がんの治療や薬の歴史を知るための参考書にもなりうる。直接がんの治療や研究に従事されている方々のみならず、医学、薬学、その他の分野において基礎科学研究に携わる研究者ならびに学生の方々が、科学に対する世の中の仕組みを知り、薬の評価といったことに対する正しい理解をもつためにも本書を一読されることをお薦めする。(蛋白質、核酸、酵素、1995年8月号、VOL.40.NO.11)
●筆力は冴えわたり、実名を示しての論証は息をのむばかりである。(儀我壮一郎氏「月刊保団連」)